幸せ…って何だろうね。
ふと、そう思うときがあるんだ。



肆拾参



「お姉ちゃん、お料理上手!!」


まさか自分が料理を覚えよう、と思ったきっかけだったなんて思いもしなかった。
あんな風に料理が作れるようになりたい、と私自身を見て思っていた幼い私。
こんな体験が出来るのはきっと私だけ。


「上手いもんだなあ。」

「おいしー!」

、それじゃあ俺の料理がまずいみたいだろ。」

「あんまりおいしくないもん。」


兄さんの料理はまずくはないが、お世辞でも美味しいとは言えない。
だから、料理を覚えようと思った、っていうのもあった気がする。


「たくさん食べてね。」


一足早く食事を終わらせて、水を汲むために外に出た。
日本はまだ上下水道が整備されていないのだ。
この家は下水道は近くの川に流れてくれるようになっているのだけど。


。」

「兄さん…!」


井戸から水を汲んでいると背後に兄さんが来た。


「夜に外に出るなって言わなかったか?」

「昔からずっと言われてました。」


叱られているはずなのに、嬉しい、だなんて。


、見せてみ。」

「何するの?」

「改良。」


戦闘用にしてやると言ってガチャガチャと改良してくれた。


「なあ。」

「何?」

「神田のこと好きだろ?」

「え!?」


改良をしながら兄さんがぽつりと零した。
その言葉に顔が熱くなる。


「図星?」

「う、……。」


身内にこういったことで図星を突かれるのが一番恥ずかしいかもしれない。


「幸せになれよ。」

「幸せ?」

「そ、幸せ。」


微笑んだ兄さんに凄く悲しくなった。


「幸せって何?」


戦いの中にいることが、幸せでないことは知ってる。
だったら、今の私は幸せではない。
だけど、兄さんと二人でここにいたときも、教団にいるときも同じように胸があったかい。
幸せだなあ、って感じることもある。


「俺は、今が幸せだよ。」


今とは、どのことだろう。
未来の私達がここにいることだろうか。
それとも幼い私と二人で暮らしてることだろうか。


「幼い頃からずっと教団に拘束されてたから、こうやって、何にもないところで、と二人で暮らせてる。すごく、幸せだ。」


リナリーや神田と同じように兄さんもまた、エクソシストだから、という理由だけで、教団に連れて行かれた人の一人。
そして教団に拘束された人の一人だった。


「だから、俺は、幸せの中で死ねたなら本望だ。」


だから悔むな、と言われたみたいだった。


はこれから人生のレールが続く。命は捨てるな。無駄な死に方はするな。正しいと思う方へ進め。幸せって、漠然としてて分からないけど、この先に必ずある。」


その言葉に涙が溢れた。


「俺はそうして生きてきたからこそ、に会えた。こうしてと暮らせてる。」


大好きな兄さん。
私を庇って死んだことさえ悔いはないのだろう。
きっと、俺は守って死ぬのが正しいと思った、なんて笑って言うのだろう。


「兄さん。死なないで。死なないで…!」

「うーん、それは無理だな。」


くしゃくしゃと頭を撫でながらおちゃらけた声がした。


「運命を受け入れんのが強い男なんです。」


その言葉が兄さんらしくて。
すごく、兄さんらしくて、私は笑った。


「兄さん、結構馬鹿なんだね。」

「今までいいとこしか見せないようにしてたかもな。」

「それはない。」


別れは寂しい。
けれど、この別れは必然だった。


「ちゃんと自分の気持ち、伝えろよ?」

「…片思いだもん…。」


神田の恋人は六幻なんだ。


「ま、伝えなきゃ、伝わんないから。」

「うん。」

「よし。」


結局同じ年くらいなのにかなりの子供扱い。
でも、おおきくて暖かい手をぎゅっと握った。




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反省。

ラブラブ兄妹めっ!!
うん。らぶらぶー。
そして主人公は、ブラコンデス。
この話は主人公に神田の恋人は〜のとこを言わせたいがために生まれた話でした。

瀬陰暗鬼。