「お嬢、小田切さんって方がいらっしゃいました。」
その言葉は一気に場を凍らせた。
本当の気持ち 03.涙と本音
今、私達はふすまの陰に隠れています。
そして、竜のお父さんと久美ちゃんの会話を聞いてます。
「息子の担任がまさかこういうとこのお嬢さんだったとは・・・。調べさせていただきました。あなたがこちらの跡取りなんですね。何でそんな人が教師なんかやっているのか不思議ですよ。」
なんでここまでするの?ありえないよ。
息子が大切だから?こんなやり方間違ってる。大切ならもっと他のやり方があるよね・・・。
「息子を返してください。ここにいるんでしょう?このままだとあなたを誘拐罪で訴えますよ?」
「なんだと!?」
「よせ、てつ。」
あ、てつさん。ってか、あの言い方酷い。
「私が一本電話をすればすぐに警察が乗り込んできます。そうしたらあなたは職を失うだけではなく、そこにいる人たちも同罪で捕まりますよ。当然三代目も責任を免れない。」
何であんな言い方しか出来ないのかな・・・大人ってやだ。
「祖父は関係ありません。」
「このヤロ、黙って聞いていれば言いたいほうだいっっ!!」
「てつ、やめろ!!」
「兄貴!!」
てつさんの気持ちわかるなあ。ちょっとムカツクもん。
「よさねぇか!てつ。」
「断っておきますが、私はお宅の生徒達がしたことを許さない。担任としてあなたも責任をとる覚悟は出来ているんでしょうね?」
「・・・・はい。」
久美ちゃん・・・・なんで私は何も出来ないんだろう・・・・。
ガタッ!
「り、竜!!どうしたの・・・・?」
竜、何で・・・?久美ちゃんの覚悟が・・・そっか。竜は優しいもんね。
「やっぱりここにいたか。」
「こいつらのこと許してやってください。」
「何!?」
「こいつらは俺のためにやってくれたんです。」
「馬鹿も休み休み言いなさい。彼らのやったことは立派な犯罪だ。」
確かに犯罪だ。
でも、子供の理屈だけど悪いことはしていないよ。
どうしたらいい?どうしたら納得して終われるの?
「お願いします。こいつらのこと退学にさせないでください。」
退学は絶対にさせない。お母さんの力を借りてでも、絶対。
「何でこんな連中のことをそんなに気にするんだ!?」
「もう、黒銀にはいかねぇよ。卒業式も出ねぇよ。親父の言うことなんでも聞くから、だから、お願いします。」
「竜、何で・・・?」
それじゃあ、竜の気持ちはどうなるの?
このままじゃ、閉じ込めたままで終わっちゃう。
「お前の将来は私がきちんと考えてやる。それを聞いていたら間違いないんだ。もうこの連中と関わるのはよせ。」
「竜のお父さん、待ってください。一つでも、一人でもかけたら意味がない。お願いします。まだ連れて行かないで。竜、本当の気持ちを聞かせてよ。何でつらそうな顔してんの?竜・・・。」
「君もこんな連中といないほうが君のためだ。」
「自分で、彼らと一緒にいたいと思い一緒にいるのがいけませんか?」
「っ・・・・さあ、帰るぞ。」
駄目、行っちゃったら、もう、会えなくなる。駄目・・・。
「待ってください!!」
久美ちゃんっ・・・
「なんですか?」
「さっき、この家の跡取りである私が何で教師をやっているかとおっしゃいましたよね?」
「それが何か?」
「私が教師をやっているのは私の祖父があなたとは違って自分の生き方を子供に押し付けないからです。」
私はこれ以上何もすることは出来ない・・・だから・・・。
「お願いです!小田切の気持ちをちゃんと聞いてやってもらえませんか。」
「あなたに言われなくてもちゃんと聞いている!!」
「そうじゃなくて、コイツが今、何を考えているのか、本心ではどうしてぇのか、真剣に耳を傾けろって言ってんだよ!!勝手に決め付けたりしねぇで子供の言うことをそのまま受け入れろって言ってんだよ!!」
私が何も出来ないから竜の手を握った。
竜にがんばれって。
「小田切、どうなんだ?お前の人生、無責任なことは言おうとはおもわねぇ。ただ、お前はそれで本当に後悔しねぇのか?おまえ自身が気持ちを伝えようとしねぇ限り、何も変わらないんだよ。お前こんな風にみんなと分かれちまって本当にいいのか?こいつらは一生付き合えるお前の仲間じゃねぇのかよ。」
竜の目から溢れた涙は本当の気持ち。
だから私は言うよ。
握った手をもっと強く握って。
「竜、がんばれ。」
私の手から竜の手が離れていった。
「竜!?」
「学校行きてぇよ。みんなと一緒に卒業してぇよ。」
私は小さくなってまた竜の手を握った。
大丈夫だよって。
「学校なんてくだらねぇと思ってた。行く価値なんて全然ねぇと思ってたよ。だけど、いつの間にか学校に行くのがすげー面白いことになってて、こいつらと馬鹿やってられるのもあと少しだなあって思うと、そんなことがすげー大事だなって思えてさ。一人でいるときいろんなこと考えてた。だけど、思い浮かんでくるのは、教室のきたねぇ落書きとか、クラスの連中とか、先公の顔ばっかで・・・。」
やだ、私が泣きそう・・・。
「山口が教えてくれたんだよ!!隼人も、ツッチーも、タケも、日向も、も、みんな俺にとって一生大事な仲間なんだよ!!だからお願いします。こいつらと一緒に卒業させてください。お願いします。」
「竜のお父さん、僕からもお願いします。竜がいて、初めて一つのクラスなんです。いなければだめなんです。」
コレが私の精一杯。
でも、今握っているこの手は絶対離さない。
「家の孫娘がご迷惑をお掛けしているようで。先ほどから奥で話は聞きましたが、この久美子が言うことが、全く間違っているようには思えないんですがね。おたくの息子さんはいい友達を持っていなさる。そりゃ、確かに利口なやり方じゃなかったかもしてませんがね、後先考えずに友達のために、ばぁーっとつっぱしることはなかなかできまないんじゃないかと、お思いになられませんかね。」
龍一郎さんっ・・・いい人だよ。
後光が見えるよ。
「俺からもお願いします。竜を俺らと一緒に卒業させてください。お願いします。」
隼人・・・。
「僕からももう一度お願いします。」
「「「お願いします!!!」」」
タケちゃん・・・ツッチー・・・日向・・・
「ッ・・・お願いします。」
竜、きっと大丈夫だよ。
「小田切さん。こんな仲間を持った自分の息子、親として誇りに思ってもいいんじゃないでしょうか?」
竜の気持ち。
久美ちゃんの思い。
龍一郎さんの言葉。
隼人、タケちゃん、ツッチー、日向の友情。
きっと伝わったよね。
「子供を育てるって言うのは難しいものですよね。」
「えぇ。」
「卒業式まで、息子のことお願いできますか?」
「はい。」
「朝早くからお騒がせしました。」
『いえ。』
「行くぞ。」
「はい。」
竜の手を解放した。
隼人と目が合ったからにっこり笑っておいた。
「ありがとうございました。」
竜が笑ってる。竜の笑った顔、好きだよ。
「じゃあ、あとでな。」
「おう♪」
「竜、よかったね。」
「ありがとう。」
「あー!にだけありがとうって言った!!」
「隼人ウザイ。」
「、酷い。(涙)」
またこうして楽しい日々が続くんだよね。
でも、もうすぐ卒業式。
お別れの時が近いんだ。
NEXT
あとがき。
竜編終わりました。
全然恋の矢印が出てない・・・。
次回は竜です。
竜ですよ!!
瀬陰暗鬼