自分のことを私は何も知らなかった。
肆拾陸
目を開けたら知らないところにいた。
体が、動かない。
「お目覚めですカ?」
「千年公…!」
「おや?御存知でしたカv」
「ええ。両親を殺したのは貴方だった。」
そう、千年伯爵に両親は殺された。
しかし、殺されたことに関して、怒りを感じない。
両親のことは嫌いではなかった。
むしろ、好きだったけれど、兄を失ったことの方が大きくて、その悲しみを忘れてしまっているのかもしれない。
「私をどうするつもり?」
「まず、お話をしましょウ。」
「話?私に貴方と話すことはない。」
あるとしたら紅龍のことだけだ。
「何故、あなたの目が赤いか知っていますカ?」
「知らないし、気にした事もない。」
確かに、両親とも純日本人。
兄さんも瞳は黒だった。
でも、気にしなかった。
にやりと笑う千年公が気持ち悪い。
「昔、裏切り者のノアがいましタ。そのノアは奏者の資格を持っていましタ。」
裏切り者のノア。
今、その話をするということは何か私と関係がある、という証拠。
「そのノアは我輩が殺しましタ。当然でス。しかし、そのノアには娘がいましタ。人間との間に生まれた娘ガ。」
娘?
「それが貴女なんでス。チャン。」
私はノアの娘?でも、ノアじゃない。
コムイから聞いたのあの話からすればノアはイノセンスで倒せる。
イノセンスの適合者である私がノアのはずはない。
「安心して下サイ。チャンはノアではありませン。」
ノアでないなら、何が目的だろうか。
「チャンの本当の母親は人間で日本人でしタ。貴女の育ての親の親友だったんですヨ。まあ、裏切り者と共に殺したんですけどネ。」
今更そんな風に言われても情も湧かない。
「チャンを殺せなかったのは、あの忌々しい、エクソシストが我輩の邪魔をしたせいでス。
まあ、そいつはもう死んだみたいですけド。そして、チャンもあるものを持っているなら殺さなくてはなりませン。」
あるもの?
そのために、兄さんは殺された。
「奏者の資格でス。」
奏者の資格。
そんなもの、私は持っていない。
「奏者ってノアの方舟のことでしょう?」
兄さんにノアの方舟のことも奏者のことも聞いた。
「残念ながら私にはその資格は無い。クロス・マリアンが言ってた。」
ただ、クロスも誰が奏者の資格を持っているかはわからないと言っていた。
それが本当か、嘘かはわからないと兄さんは言っていたけれど。
「あの男ガ!?」
「もう、用は済んだでしょう。を返して。ついでに、紅龍もね。」
「駄目でス。チャンの力はエクソシスト達にはもったいなイ!」
神様に呪われた力。
その神様は間違いなく、エクソシスト側、つまり千年伯爵にしたら偽りの神の力。
偽りの、と言われて思いつくのは堕天使とか悪魔とかだ。
「私は、貴方を許さない…!」
私が持ってない力のために、兄は殺された。
私を狙う必要はなかった。
なのに、兄は…!
そう思っただけで腸が煮えかえりそうだ。
「まあまあ、千年公。」
現れたのはティキ・ミック。
「俺、あんたのこと、気に入ってるんだ。ちゃん。」
「触らないで…!」
目の前にティキがいる。
「真っ赤な眼、宝石みたいだ。」
「どういうつもり…!」
「逃がしてやってもいいぜ。ちゃん。」
が渡された。
渡されても磔になっている体では逃げることなんて出来ない。
「でも、紅龍は渡せない。」
パンっと音がして、紅龍が砕けた。
「ティキポン、またチャンには寝ててもらってください。」
ティキポンと呼ばれた人はまた、私に薬品を嗅がせた。
NEXT
反省。
話しめちゃくちゃ…。
主人公殺さず、しかし、過去を流す。
そして無事ってのは難しかった。
千年公は諦めたわけではありません。
あとは、ティキポンに任せただけです。
瀬陰暗鬼。