昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いても、私たちは屋上の一角から動こうとはしなかった。
めんどくさいのでこのまま5時間目の授業はサボってしまおう、提案をしてから10分が経過。





「高杉ー。なんだか暇だねえ。」
「……。」
「…おい、聞いて…る?」





問いかけに対して反応が無い。横目で彼を覗くと、奴は寝ていた。
ますます暇になってしまったので、とりあえず屋上に上がる前に買ったペットボトルを取り出して一口。
口の中に広がる甘みと炭酸のあのコラボレーションがたまらない!
(炭酸を開発した人を私は誉めたたえたい!)

感動に浸ってみたものの…やはり暇なので、ぴくりともせずに眠り続ける高杉を観察がてら見つめてみた。





「うっわ…こいつは…。」




正直言って悔しい!なんだよ男のくせに綺麗な寝顔しやがって。

ふと制服の胸ポケットから取り出した手鏡で自分の顔を映してみた。映ったのは残念すぎる私の顔。
化粧だってナチュラルだけど…がんばってるんだけどなあ…。

ほんの少しはだけた彼のYシャツ胸元からなんとも言えない色気が漂う。
完璧すぎる容姿に俺様気質。
こんなの漫画の世界だけだと思っていたんだ。まさか私の目の前にいるとは。(そして悪友になるだなんて誰が予想できただろう!)





「…可愛くなりたいなーあー。」





別に、この顔に生んだ両親を憎んでいるわけじゃない。

だって、もっと可愛い子だったらきっと……。





最初は只の悪友、サボり仲間だっただけ。
他愛もない会話を繰り広げて、一緒に銀八いじめて、学校抜けだして遊びに行くのが楽しかった。それだけだったのに。
3年もこうしていると…やっぱり…別の感情が芽生える…ワケで。










「…。」
「あ、起きた?」





もやもやと考え事をしていたら突然呼ばれて私は現実に引き戻された。
独り言とか聞かれてないかな…大丈夫だよね…?





「さっき買ったやつ、寄越せ。」
「はいはい。」





言われた通り、コンビニの小さな袋からさっき購入した紅茶を取り出して投げてやった。
お、ナイスキャッチ。





「…相変わらずノーコンだな。」
「うるさいなー、それなら自分で取りなさいよー。」
「てめーがいるから取れねェんだよバカ。」
「…このバカ杉。」
「あん?もう一度言ってみろや。」





立ち入り禁止の屋上に響く会話。
只なんとなく話しているだけで意味など全く無いに等しい。
ここにいるのは、私と高杉だけ。二人きり。(それだけで幸せ)





「わあ…空綺麗だよー?見上げてごらん昼の空を!」
「ナチュラルに昭和の名曲をパクるな。」
「ほら、見てみなよ!この白い空と青い雲を!」
「逆だぞ、逆。」
「そして広く続いている世界!」
「……。」
「ぷっ……!」





思わず笑ってしまった私に彼は冷たい視線を刺す。
気づかないフリをして私も寝ころんでみた。





「この空を見上げてるの、校内ではきっと私たちだけだね。」
「…知らねェよ。」





ゆっくりと流れ続ける雲をぼんやりと見つめていると、眩暈をしそうになるんだ。
そして、何故か悲しくなって、涙が溢れそうになるの。不思議。





「…紅茶美味しい?」
「…温ィ……。」
「日なたに置いておけばしょうがないよ。」





なんだかんだと文句を言いながらも高杉は紅茶をまた一口。
どうしよう、紅茶が飲みたくなりそう。





「私紅茶嫌いなんだよね。」
「てめーの事なんざ知らねェよ。」
「でも飲んでみたいな、なんて思ったりした。」
「…ほら。」




ずい、と手渡されたのは、飲みかけの紅茶。
これってもしかして…!!(か、か、か、間接…キ、キスぅぅぅぅ!??!)




いやいや待ってどうしよう心の準備ができてない。
冗談で言ったのに…!まさか…まさか!!





「い、いただき、ます。」




意を決して、一口。紅茶独特の風味が、喉から広がっていく。





「う…。」
「クク、まだまだガキだな。」





高杉本人に申し訳ないけど…やはり無理でした。興味本位で飲んでみよう、だなんて思うんじゃなかった。





「私、やっぱりこっちのほうが好きだ…。」
「そーかよ。」
「うん、ごめんね。お詫びと言うのもなんだけど、サイダーも一口あげます。」





さっきの高杉のように、あたしはペットボトルを手渡した。
彼は受け取ってくれたものの、飲もうとはしない。
あれ、炭酸苦手だっけ?(それこそ子供じゃないか)

嫌なら先に言ってよねー。





「ねえ、嫌なら別…に………!?」



言葉を紡ぐ途中、ばっちり視線が合ったと思った瞬間、超至近距離に高杉。





…キス、された……?





そう気づくのに時間はかからなかった。
唇が離れた瞬間、彼はとても嬉しそうに口角をあげた。(嗚呼、どうして、?)

動けない私を見つめながら、残り少ないサイダーを全て飲んだ彼は「ごちそうさま」も言わずにこう一言。







「好きだぜ、。」





これは反則ですよ、高杉晋助君。




flow...
(で、てめーはどうなんだ?)
(ああもう!分かってるでしょう…好き)

fin.(2009.06.29、up2009.07.01)
→過去の作品を発掘したので書きなおしてみました。しかし変換少ないよね…。