いつも適当なクラス。
いつも適当な教師と生徒。
それがココ、3年Z組こと3Zなのです。
そんな3Zに気になる空席が一つ。(あたしの隣の席だからとても気になる。)
座席表を見てみれば、名前は書いてある。

今の授業…現国はほぼ自習なので、教卓でジャンプを読みふける現国担当兼担任教師に尋ねてみた。


「先生、質問いいですかー?」
「『銀ちゃん』って呼んでくれたらな。」
「…。」
「ほらほら、質問なんだろー。言ってみろォ。他の教科とプライベートな質問はダメな。」
「…銀ちゃん。」
「え、ちょ、マジで銀ちゃんって!!マジで嬉しいんだけど!」



舞い上がる先生にはあえて触れずに質問へと続けた。



「この座席表に書いてある、高杉って誰…ですか?」
「高杉だァ?気にしなくていいんだよ、どうせ来ないから。」
「なんで?不良なの?高杉君って。」
「そーそー。不良。しかも不良の中の不良!」
「だから学校に来ないの?(不良の中の不良って!)」
「不良ってのはなァ、学校には行くんだけどサボってる奴と学校に行かずに遊んでいる奴と分類されるからな。」



またジャンプに視線を戻した先生。
とりあえず高杉君は学校に行かないタイプの不良らしい。

少しもやもやしているけどとりあえず解決したので、あたしは席に戻った。
カバンの中から林檎ジュースを出して机の端に置いた。(先生は気付いていないのか、スルー。)(フリーダム!)
キャップを回したと同時にガラガラと教室の引き戸が開いた。ピタリ、と騒がしい教室が静かになった。
出入口にいるのは見たことない人。黒髪に眼帯、学ランの下には赤いシャツ。


…一体誰なの?

この静けさを最初に破ったのは先生だった。



「た…高杉…。」
「よォ。」



ニヤリ、と不敵に笑う見たことない人…もとい高杉君。
ぼーっと二人のやり取りを見つめていると先生がジャンプを教卓に置いて、あたしの方を指差した。



「とりあえずだ高杉、席つけ。席。」
「何処だよ。」
「あー…えっとな、あそこだ。ちゃんの隣な。(チクショウ、羨ましい)」
「誰のことだよ、って。」
「後ろにいる髪の長い子!可愛い子!ちなみにオレのお気に「先生、それ『セクハラ』ネ!ー!銀ちゃんに近づいちゃ駄目アル!!」
「神楽うるせェー。ちょっと黙ってろー。」
「酷いわ銀さん!私というものがありながら「お前も黙ってろー。」



ぎゃあぎゃあと再びざわめきだす教室内。(これが3Zクオリティ!)
まあ、これが3Zなので…あたしは特ににせずに先ほど開封した林檎ジュースを飲もうとペットボトルに手を伸ばした。





そのはずだった。





机の上のペットボトルが消えた。床に落としたのかと思って下を見ても無い。
きょろきょろと周りを見渡しても無い。カバンの中を見ても無い。


「あんまり美味いとはいえねーな…。」
「え?」


隣を見ると先生に向けたのを同じように不敵に口角を上げて笑う高杉君。
その手に握られていたのはあたしのジュース。


「あの、高杉…君。」
「なんだよ。」
「それ、あたしのジュースだよね?」
「クク…それくらい知ってらァ。」



ニヤニヤと笑われる。(若干いたずらっ子のようだ)



「じゃあなんで飲むの…!(しかも不味いって!酷すぎるよ!)」
「なんでだろうなァ。(おもしれェ女)」



机の上に乗せた足を組んで、またあたしの(だった)林檎ジュースはごくり、と飲まれた。
折角買ったのに…いつも売り切れなのよ、その林檎ジュース!!

「喉渇いた…はあ…。」

相変わらず騒がしい教室のおかげであたしの溜め息と独り言は誰にも気付かれなかった。
暇すぎるのと喉の渇きから気を紛らわすため、高杉君越しに窓を眺める。嗚呼今日は快晴だ。
涼しい風が窓から入り込む。

窓を眺めていると必然的に彼が視界の隅に入る。
…林檎ジュースと、高杉君。(ミスマッチ!)





。」
「……。」
「おい。」
「………え?」



高杉くんがこっちを見た。
『不良=カッコいい』という方程式は少女漫画の中だけではないんだなー…。



「やる。」
「あ、ありがとう。」



ぶっきらぼうな言葉と共に投げられたのは、紅茶。
なんだ、高杉君って優しいんだ。
顔が綻ぶのを隠しつつ、あたしは高杉君にお礼を言う。



「ね、飲んでいい?」
「てめーのだから勝手に飲めばいいじゃねェか。」
「うん。ありがとう、高杉君。」





「…晋助。」





貰った紅茶を飲もうとした時だった。高杉君がぽつりと漏らした言葉。(し、晋助…?)


「へ?」
「晋助で構わねーよ。」
「でもっ、」

「次、苗字で呼んでみろ。その時は…覚悟しておけ。」

「は、はい!」



クク、と楽しそうに笑う高す…晋助に恐怖を感じたと共に何故だか興味を持った。



初 恋 行 進 曲
(隣の席の不良君)(何故だろう、君のことが、)

fin.(2008.02.16)