たまにふらりとやってくる貴方。
帰ってくれば帰って来た全身血で染まっていたり、知らない女の香りを纏っていたり。
文句を言うのは簡単だけど、切れてしまった糸を繋ぎなおすのはとても難しい。(いいの、私は今のままが幸せだから。)





ぼんやりと窓の外の雨空を見上げ、止まない雨にため息をついた。
まるで不安に駆られた私の心を表しているようで。

いつからこんなに依存してしまったのだろう。
くたり、と倒れこんでみると畳の冷えた感じがとても気持ちいい。
そっと目を閉じて想うのは貴方の事。










貴方は、今何処?
         誰を、抱いているのですか?

(貴方のことを、忘れてしまいそうです。)





静かな部屋に広がる雨音が一層哀愁を誘い出す。
だからといって涙が溢れるでもない。溢れるのは貴方への切なさと想い。

会いたい。




「…晋助……。」





+ + + +





ゆっくりと瞼を開けた。いつの間にか眠っていたみたい。
相変わらずの雨…空の不自然な明るさに私は夜が訪れたことを知った。

体を起こして周りを見渡す。





するり。





何かが肩から落ちた。

窓からのほんの少しの明かりでその『何か』の正体を確かめる。








見覚えのある柄の、羽織物。
だけど私の物では無い。心当たりは一人。





「…晋、す、け……?」

部屋に響いた私の声。反応は無い。

「いるんでしょう…ねえ…。何処ぉ…?」



寂しいよ、と言いかけた時ぎゅっと誰かに抱きしめられた。
嗚呼、この香りは――



「…。」


久しぶりに聞いた晋助の声に、不覚にも涙が出てきた。(彼の前ではどうしても強がることができないんだ。)
そのまま晋助の体温に、みるみる侵されていく。
それは酷く心地良くて、私は目を閉じて静かに涙を流した。


「っ晋助…会いたかった……!」





しばらく私を抱きしめていた彼の腕はやがて抱きしめる事を止めた。
そして、私を畳の上に組み敷く。
首筋に痛みが走った後、続けて生ぬるい感触が這う。



「ん…っ…。」




考えること無く彼の首に腕をまわしてそっと抱きついた。ふと目に入るのは、綺麗な首筋。
かぷっ、噛み付いてみると彼は動きを止めた。




「ッ何、してんだ。」

「ごめんなさい…。」

「気にしてねェけどよ…。」


(この時の晋助の嬉そうな表情を、私は知る由も無かった。)





「ね、晋助。」

「あァ?」





今日は、いっぱい愛して。

雨のノイズと、江戸の街のネオンが眩しかった。




Selfish Love
(愛して下さい。もう貴方がいないと生きられない。)



fin.(2008.12.18)
→最近彼が好きなんだ。大人の雰囲気は難しい。