「ねえ、れいた。」
「おー。」
「これあげるよ。」
そう言われ、手を差し出したらもらえました。
…1枚の板チョコ。
1 COIN LOVE!
「これは…。」
「嬉しい?チョコだよ?」
「…。」
「れいた甘党じゃん?」
「…義理チョコ?」
まさかこれが本命だったら俺はどういう反応をすればいいのだろう。
喜ぶべきか…悲しむべきか…。
「義理でも本命でもないよ。」
「じゃあ何だべ?」
「えー…友チョコ?」
正直複雑だ。
義理チョコのほうが嬉しいような気がする。
「全員に板チョコ渡したのか?」
「チロルチョコ渡した。」
「…はあ。」
なんて奴だ。
「れいたのチョコが一番高かったのよー!」
「大して変わんねーべ。」
「れいたのは88円もしたんだから。」
確かにチロルチョコよりは高い。
はいつも不思議な奴だと思っていたが…まさかここまでとは。
放課後の教室からは甘い香りが未だに残っている。
(今日は一日チョコレートまみれだったからな…。)
窓を見れば青空など見えず雪がちらついている。
昨晩からの雪はすっかり窓からの景色を変えてしまった。
(この雪の影響で学校は午前放課になった。)
ほとんどの生徒は下校し、教室に今いるのは俺とのみ。
は教室のストーブの前でパイプ椅子に座っていて、俺は床に座っていた。
聞こえるのはストーブが動く音と、俺らの会話。
「88円って…100円で買えるな…しかもお釣りも出る。」
「100円玉買いました。というか早く食べてよー。」
「今?」
「今。溶けたチョコは嫌でしょう?」
まあ、溶けたチョコは食いたくねーな…。との言う事に賛同した俺は、板チョコを銀紙から少し出してかじった。
…普通のミルクチョコレート。
「美味しい?」
「そりゃー市販のだからな。」
「ふーん。」
「お前さ、手作りとかしないワケ?」
「湯せんで溶かして型に流し込むのなんて手作りじゃないでしょ?」
「そうか?」
「だって形が変わるだけじゃない。手作りならもっとしっかり作らなきゃ。」
「例えば?」
「…カカオから育てる。」
「ばーか。お前不思議すぎ。」
はちゃめちゃにも限度というのがあるだろ。
「え?それってどういう意味?!」
「そのまま。普通の奴ならそんな事言わねーって。」
「うーん…まあ…そうだね…。」
「来年は湯せんで溶かして型に流し込んだチョコレートにしろよ?」
「ちゃんとお返ししてくれるなら。特別に作ってあげる。」
「今年の分は今返すべ。」
そう言った俺は床から立ち上がって、椅子に座っているの腕を引いてそのままそっと抱きしめた。
「ちょっと…れいた?」
「。」
「な、何?」
明らかに動揺しているの髪を撫でながら俺は言葉を続けた。
動揺していても抵抗はしていない。
「…好き。」
「う…そ…。」
「本当。この日にそんな冗談はキツイだろ。」
「…88円の板チョコであたしの事好きになったの?」
「まさか。それより前から好きだった。」
「じゃあ、この板チョコをれいたに渡さなかったら?」
「に好きって言えなかったな。」
「れいたって何気に可愛いとこあるんだね。」
「うっせー。で、返事は?」
「……。」
「好きなんだろ?」
だから俺だけ違うチョコなんだろ?
耳元でそっと言ってやれば、はぎゅっと俺の制服を掴んだ。
「…だよ。」
「?」
「そう…だよ。あたしだって…す、す、好きだもん。…れいたの事。」
真っ赤な顔で言ったあと、そのままそっぽを向いた。
目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「…泣きそうだべ?」
「うっさい…。」
「あ、涙こぼれた。」
「れいたが泣かしたんだからね…!」
「そんなに嬉しかったんだ?」
鼻まで赤くなったまま、コクリと頷いた。
「だって、ずっと…ずーっと…。」
何かを話そうとしたに、俺はそっと唇を落とした。
ちゅ、と小さな音を立てて唇を離し、腕も話せば重力に従うかのようには床に座り込んだ。
「どーだった?」
「甘かった。」
「さっきまでお前がくれたチョコ食べてたからな。」
「…誰も見ていなかったよね?」
「見られたかったの?」
「やだよ。だって恥ずかしいじゃない。」
「全然。」
「変態。」
「その変態を好きになったのは誰だべ?お前だよなァ?」
「…はい…あ。」
「あ?」
指差した方向を見れば、さっきまで大量に降っていた雪が止みかけていた。
「帰るか。」
「うん。」
手を引いて座り込んだままのを立たせた。
そのまま彼女の掌をしっかりと俺の掌と繋ぎ合わせた。
「来年はチョコレートじゃなくてクッキーにしようかな?」
「マジ?期待しておく。」
「楽しみにしててね。」
ふんわりと笑った彼女。
はちゃめちゃでよくわからない奴だけど、今の笑顔はとても綺麗で。
大切にしよう、って思った。
そんな大雪のバレンタインデー。
fin.(2008.02.14)
→甘い。ちょっと展開が速すぎたなーと反省+ありきたりな話すぎたと後悔。