「どーん」

ひたすら前を向いていた私の背後から声がした。
同時に背中と頭が重くなる。


「重いんですけど」
「ぼく暇ー」
「残念ながら私は全く暇じゃありません。状況から察してください」
「今日はぼくのところまで来るトレーナーいない。退屈。つまんない。暇ー」
「ああそうですか。それなら車両に戻って寝ててください」
「そうだ、とバトルすればいいんだ!そうしよう!」
「誰がこのトレインを運転してるか分かってますよね?」

そんな事すれば脱線しますよ。
いつもニコニコしている彼に負けないくらいの笑顔を見せると彼はちえっ、と口を尖らせた。



…バトルサブウェイ。イッシュ地方ライモンシティにあるバトル施設。
一部の方々からは『廃人養成施設』やら『廃人収容機関』だなんて恐ろしい名前で呼ばれてしまってる。(仕方ないけれど…)
ここが私の職場。バトルをする事もあるけれど、専らトレインの運転が私のメインだ。

ちなみに言うと、私の背中にひっついている彼こそがサブウェイのボスの一人だったり、する。
人の話を聞かない&見た目の割に中身が酷く子供ではあるが、バトルは恐ろしいくらいに強いのだ。
ダブルバトルに関しては彼の右に出るものはいない。



そんな彼はさっきから背中で暇だ暇だ言いながら私の職務の邪魔をしてくる。上司なのであまり強く言えないのが、辛い。
こっちは事故が起こらないよう細心の注意を払っているというのに!



「…クダリさん」
「なあにー?」


べ、別に今『可愛い…』とか思いませんでしたからね!ええ、これっぽっちも。


「いい加減に離れてください。ストレートに言いますけど、邪魔です」
「やだ。暇だからやだ」
「だから私は暇じゃないんですって!皆様の命を預かっているんですよ」
「知ってる。でもは出来る子だから大丈夫ってノボリ言ってたし」


何を思ったのかこの自己中の塊…もといクダリさんは私の腰に腕を回してきました。(うわあ肉がばれるやめて)


にぎゅー」
「本当に脱線しますよ…って何処触ってるんですか止めてください。く、くすぐったいです」
「いい匂いする」

シャンプーかなー?ふわふわする匂いだねー


呑気な声とは反対に腕の力が強まった、気がした。
左を向けばすぐにクダリさんの顔。振り向いたらそれこそ本当に危険なので視線は前に向けたまま、少し大きな声を出す。


「ああああもう!危ないって言ってるでしょう!はーなーれーろー」


…残念ながら状況変わらず。
上司だという事をすっかり忘れて若干口調が砕けてしまったが…クダリさんだから仕方ない。だってクダリさんだし。

一向に離れる気配が見えないので諦めることにした。
とにかく安全運転安全運転。頭の中はそれだけを考えることにしよう。



「ねえ

「…」

「ねえねえ」

「……」

「ねーったら!ねえねえ!」





「………早く誰か20勝してくれないかな…」





私を解放してくれる強いトレーナー求む。マジで。



やわらかい)
(太ってるって言いたいんですよね理解しました)
(ちがうー)

fin.(2010.12.23)
ついついうっかり。しかし本当に危ないね…。