―今度は一緒に紫陽花が見たいね。
そういった彼女に俺はもう、三年も会っていない。
紫陽花の花
「えー!!!」
「びっくりっしょ!?俺もさ、リナリーに聞いたときゃあ、驚きのあまり、食堂の椅子から転げ落ちたさ!」
「どんな人なんですか!?神田と付き合うなんてそんな物好きが・・・」
「だよなー。俺もそう思う。」
「で、どんな人なんですか?」
「ん?俺、会ったことないんだよねー。」
「え?」
「リナリーの話だと、三年くらい帰ってきてないんだと。連絡も一切よこさないし、元々教団が嫌いらしいから、誰かが連れ戻さない限り、戻ってこないだろうって。」
「どっかで聞いたことがある話・・・。」
「あ、元帥とは仲良いらしいよ。その人も科学者らしいから。あ、でも、年に一回、必ず荷物が届くんだと。」
「へ?」
「それが今日ってわけ!なー、ユウ。」
ラビとモヤシが話しているのはの話。
は日本人で、俺の女だ。
「ユウ、そのちゃんってどんな子なんさ?」
「はっ、誰がテメェに言うかよ。」
「ケチー。」
は変わった女だ。
独特の雰囲気を持っていて、決して自分のテリトリー内に敵を入れなかった。
ここで言う敵は、の敵。
は、人を自分、好きな人、嫌いな人で分けている。
つまり、敵は嫌いな人だ。
「なー、なー。いつ帰ってくんの?」
「知るかよ。」
あいつはいつも気付いたらいなくなっていて、ふとしたときに帰ってくる。
ただ、こんなにいないのは初めてだ。
ダダダダダーッ!
「神田ッ!こんなところにいたのね!一緒に来てッ!!」
グイッと腕を掴まれて、一気に引っ張られた。
リナリーはイノセンスを開放していて、待てと言ったが無駄だった。
溜息を吐いたとき、無駄に必死に追ってくるラビとモヤシが見えた。
*
「司令室・・・?」
連れてこられたのはよく来る場所、司令室。
「今日は・・・」
「任務で呼んだんじゃないよ。ほら、入って。」
背中を押されしぶしぶ扉を開けた。
ソファーには女がいた。
黒い髪の女。
こちらをくるりと振り返って、柔らかく微笑んだ。
「神田?」
心臓が飛び跳ねるというのはこういうことかと感じた。
「うっわー、前より髪の毛伸びたんじゃない?可愛い、可愛い。」
間違いない、だ。
「・・・。」
「うん。久しぶりだね。あ、身長も伸びたねー。六幻の調子はどう?なんなら改造してあげましょうか?」
三年という時を全く感じさせない。
でも・・・あれから三年は確かに過ぎたんだ。
「今まで・・・」
「んー?あー!!!」
「「((ビクッ!?))」」
は影でコソコソしていたラビとモヤシを指差して立ち上がった。
「コムイ、この子達、誰?」
コムイに対して、誰よりも偉そうなところも変わっていない。
「ラビとアレンくんだよ。アレンくんは最近入団して、ラビは二年前にブックマンと入団したんだ。」
「ブックマン・・・へぇ、ブックマン一族か。でもって、アレンは聞いたことあるな。クロスの弟子だね。苦労人だ。」
「え、あ、はい。」
「親しみを込めてモヤシと呼ばせてもらおう。よろしく、モヤシ。」
「アレンでお願いします!!!」
はソファーから立って近付こうとはしなかった。
きっと、モヤシもラビも嫌いの部類に入ったんだろう。
「あ、そだ。後で、へブラスかのところに行かなくちゃ。神田も一緒に行く?」
もう興味はないと言わんばかりには話を戻してきた。
「行かねぇ。」
「んもう。相変わらずそういうとこ可愛くないなあ。」
そんなとこも好きだよ。とさらりとこいつは言った。
「え、もしかして、神田の彼女・・・」
モヤシとラビはまだコソコソ何か言っている。
「みんな、私がどうして三年も旅立ってたか知りたいでしょ?」
音信不通で。と明るく言うを一発殴った。
「痛いなー・・・ユウちゃんのアホー。」
「!」
「あ、ごめんごめん。名前で呼ぶのは二人のときだけね。」
ユウって尻に敷かれるタイプだったのか・・・!というラビの声が聞こえたので、むかつくから近くにあった瀬戸物を投げてやった。
「おっと、忘れるところだった。私は三年間、温暖な地域でちょっと園芸をやってたのよ。」
ほら、私ってお花似合うでしょ?と言うをもう一回殴ってやろうかと思って手をかざしたら、冗談よ。と言われた。
「でも、花が好きなのは事実。それよりも、これを育ててたのよ。」
指差された方を見ると大量の紫陽花。
「綺麗な薄紫でしょう?青も綺麗に咲いたわ。白だって綺麗。これは、神田へ誕生日プレゼントとして持ってきたの。綺麗でしょう?約束だったからね。」
「忘れてなかったのか・・・」
「馬鹿ね、私を誰だと思ってるの。コムイの100万倍頭がいいんだから。本当は私が室長をやりたいくらいよ。」
ここにいちゃ、何も出来ないと思った。
だから、大量の紫陽花をがしっと持っての腕を引いた。
「ん?」
「行くぞ。」
「うん。私の部屋、汚いから神田の部屋に当分泊めてね。それと、リナリー。明日一緒にお風呂入ろうね。」
一つ、紫陽花の花びらが落ちたのがわかった。
*
「お前、何処に行ってた。」
「ふふ、探した?」
ごろんと人のベッドの上に寝転び、は楽しそうにした。
「こっちは気が気じゃなかった。」
「うん。でもね、私は教団が嫌いなの。知ってるでしょ?」
「知ってる。」
それでも、俺は・・・
「一人でね、紫陽花を育ててて思ったんだ。一人ぼっちは寂しいんだなって。」
俺も三年間そう、思ってた。寂しいって。
「だから、戻ってきたの。」
凛とした声に、俺は視線をそらせなくなった。
「全部終わらせて、私はあんたと二人で暮らしたいわ。日本の花をいっぱい育てて、それでって。」
どこからともなく、唇が触れた。
「来年は何がいいかしら?」
「がいれば、それでいい。」
fin.
あとがき。
途中から主人公ちゃんが分からなくなった。
神田が可愛きゃいいかなって思った。
これ、誕生日の意味があるのだろうか・・・。
瀬陰暗鬼。