彼女が、死んだ。
その知らせを聞いたのは彼女が灰になってから大分経った後のこと。



彼女はいつでも笑顔を絶やすことはなかった。
いつもニコニコと笑って。涙なんて滅多に見せた事なんてなくて。

そんなもんだから僕は一度だけ尋ねたことがある。「僕はそんなに頼りないのかい?」と。
我ながら女々しい問いかけだとは思っている。(僕は不安だったのだ。)
でもあの時、紡いだ言葉の綴りは確かにこれだった。
彼女は……は、僕の問いかけに静かに返してくれて。

「そんなわけないでしょう。ダイゴと一緒にいるから私は嬉しくて、幸せなの。」

だから笑っているんだ、そう嬉しそうに答えた彼女を僕は思わず抱きしめていた。





それからしばらくして、は手術の為に故郷へと戻った。
彼女は生まれつき病を持っていたから。(それは重い重い不治の病)


「寂しいな。」


電話越しに呟いたに胸がちくり、痛む。



「僕が会いに行くよ。だから大丈夫。」
「…ダイゴ。私、」
は病気を治す事が大切。」
「そうだけどっ…」

「……寂しいのは、僕も同じだから。」



機械を通じて聞こえてきたのは小さな嗚咽。
彼女が泣いたのなんて初めてで。僕はどうすることも出来ずに静かに彼女の言葉を待つ。


「ダイゴ…私、まだ死にたくない…よ…」


なんて無力なんだろう。
僕はの病気を治す事も抱きしめることも出来ない。



「大丈夫。には僕がいるよ。」



声を掛ける事しか出来ない、なんて。
(一体、どこら辺が大丈夫なのだろうか)









何かと忙しい毎日ではあったが時間があれば彼女の病院へ顔を見せに出かけてはいた。

見舞いに行くときの彼女の嬉しそうな笑顔が印象的ではあったが、やはり無理をして笑っているのが僕には手に取るようにわかった。
回数を重ねるたびに弱弱しくなる笑顔、今までだった十分細かった腕が壊れてしまいそうなくらいになっていたり。見るのも辛いのが本音ではあった。




彼女の容態が悪いことも、もし手術をしても完治の見込みが少ないことも僕は全て知っていたんだ。





だけど全てを知っている僕は、弱っていく彼女を励ましてあげるしかできなくて。





□ ■ □ ■





彼女が旅立ったのは入院してから2ヶ月後。手術の前日、本当に突然だったらしい。
は眠るように、静かに、静かに息を引き取った。


時を同じくして、僕は親父の後を継ぐ準備に入っていた。
そのおかげで彼女の元へ出かけることが以前より減っていたが…まさかこんな事態になるだなんて。


僕は彼女の葬儀へ出席することも、彼女の最期を看取ることも、何一つ出来なかった。
彼女は僕との交際をあまり他人に話していなかったという。

連絡が届いた時、の両親は頭を下げて謝罪を述べていたけれど、僕は頭の中が真っ白で言葉なんて入ってこなかった。





その日から、無常にも数日が経過。
未だに整理がつかない頭を必死に働かして向かったのは、の眠る場所。
僕以外誰もいないココは、とても静かで。(これでやっと僕らの時間が出来たね。)




嗚呼こんなにも小さくなってしまって、愛しい
どうして僕を置いて逝ったんだい?



生前彼女が好きだった綺麗な花を一輪と、白い薔薇の花束を墓前に添えて。
彼女の好きな花は美しいくらいの赤で、白い薔薇に映える。



ぼんやりと見つめた後、僕はぽつりと言葉を零し始めた。
同時に涙も零れて地面に染みを作った。





は、幸せだった?…僕は、とても幸せだったよ。もっと、もっと…一緒に居たかったけど、ね……。」







、)(僕の声は君の元まで届いていますか?)



――さらば、君と過ごした甘き日々よ。

fin.(2010.03.03、加筆修正・up2010.03.16)
→死ネタなんて書くもんじゃない。これは難しい。

title by コ・コ・コ