“おめでとう”と一言言うだけなのに、緊張して振るえた、中三の春。
同じ高校だってわかったのは次の日で・・・すごく嬉しかった。

次の年、緊張しながら友達の影から“おめでとう”って言った。


それから一年、私は何も変わっていない。










変化











「・・・お前、うぜー。」

「・・・知ってるよ・・・。」





私は昨年も今年も榛名くんと同じクラス。(いや、中学一年からずっとだ・・・)





「たった一言なんだけどね。」

「まーな。」

「本人を目の前にすると言えなくなっちゃうんだあ・・・」

「俺とは普通に話すのにな。」

「榛名くんだからね。」

「それ、俺にものすごーく失礼だよな。」

「・・・違うよ。話しやすいってことだよ。」

「そっか。褒められてたのか。」





んじゃ、俺は部活行くって言って榛名くんは上機嫌で去っていった。(彼、単純だよね。)



まだ、わいわいがやがやしている教室で、私は一人ため息をついた。

鞄の中にある包みを見て、さらにため息。
その包みは、毎年この日に焼くケーキ。(カップケーキなんだよ)
中三の時も、去年も渡せなかった。(いつもおめでとうって言って逃げちゃうから)
家に帰って自分で食べる虚しさといったら・・・でも、今年もそうなりそうだ。










*








「秋丸ー。」

「んー?」

「あーきーまーるー。」

「なんだよ!聞こえてるから耳元で叫ぶな!」





二年前、おさげ髪の女の子が目の前に来て、おめでとう!と言って走り去っていった。(可愛かったな。)
昨年、榛名の影でこそこそしてて、ひょっこり顔を出しておめでとう!と打って去っていった。(可愛かった。うん。)

榛名とずーっと同じクラスのさん。(何度か俺も同じクラスになったことがある)
すごく小柄で、榛名曰く、料理が上手い。(何度か弁当を分けてもらってるそうだ。)

今年も来るのかなってちょっと期待していた。





「秋丸はさー、話しにくいんだって。」

「いきなりなんなんだよ。」

が言ってたんだよ。」

「え、さん?」

「ん。がさー、秋丸と話すと緊張するって。」

「・・・可愛いよね、さん。」

「小せぇしなー。」

「そういう意味じゃないよ。」





榛名と話していると凄く疲れるよ。





「いつもキラキラ・・・って言うか・・・さん、すごく可愛く笑うだろ?」





わからないって顔の榛名。

俺はお前がうらやましいよ。





「あ・・・」

「何?」

「秋丸、ちょっと耳貸せ。」





にししと榛名は笑いながら俺に耳打ちをした。(榛名がこうやって笑うときはろくな事がない。)



内容は部活が終わったら校門の桜の木の下にいろというものだった。










*








榛名くんからメールが一通。



部活が終わる頃、校門の桜の木のところにいろっていう短いメールだった。

きっと、待っていないと彼は拗ねて、明日ご機嫌取りが大変だろう。
特に予定も・・・ないので、待ってることにした。





「遅いなー・・・・」

「あれ?さん?」

「へ?」





呼ばれて振り向いたら秋丸くんがいた。

ギョッとした。





「どうしたの?」





笑顔で言われて固まってしまった。

でも、この状況じゃ回避不可能だ。





「わ、私は・・・榛名くんに呼ばれて・・・」

「え?榛名に?俺も、あいつに呼ばれたんだよね。」





も、もしかしてこれって漫画でよくあるパターンで榛名くんが仕組んだってヤツ?
榛名くん、頭よくないのに・・・嬉しいな。

このチャンス・・・逃すわけにはいかないよ・・・ね?



そう思って、掌に人という字を三回書いて飲み込んだ。





「あ、秋丸くんっ!」

「ん?何?」

「た・・・たんじょ、うびっ・・・お、めでと・・・うっ!」





きっと、顔は真っ赤だろう。
逃げ出したい。そう思って、逆を向いて走り去ろうとした。

その時だった。



秋丸くんに腕を掴まれた。





「待って!」

「(ヒィ!)ご、ごめんなさいっ!」

「(なんで!?)これで三回目だね。」





え?

あれを覚えててくれた・・・?





「今年も言いに来てくれるだろうなあって楽しみにしてたんだ。」





凄く嬉しかったんだよと秋丸君は私に言った。





「あ・・・りがとっ・・・」





うまく秋丸くんを見れない。





さん。」

「はいっ!」

「俺、ずーっとね、可愛いなあってさんのこと見てたんだよ。」

「う、えっ!?」





初めて目線があった。(顔をあげたから。)





「俺と友達になってください。」

「・・・わ、私・・・」





何で友達じゃやだなって思うんだろう。
十分なのに・・・十分なのにな・・・。

私は我侭だ・・・。





「あ、秋丸くんのことがす、好きです!」





いつもの倍くらい大きな声がでた。





「・・・はい。俺もさんのことが好きです。」





だから友達じゃなくて恋人として付き合おうかと言われた。
私ははいと答えた。





「あのね、ケーキがあるんだよ!」





今年は渡せた。
家に帰ってむなしく食べる必要がなくなった。





「ありがとう。さん。」

「おめでとう、秋丸くん。」





明日、榛名くんの好きなものがたっぷりつまったお弁当を用意しよう。

秋丸くんと私の分だけど。










―fin.










あとがき。

秋丸おめでとう。
秋丸実は初書きですよ。
秋丸だもん。(失礼にも程がある。)
秋丸大好きです。
榛名のお守りをしている秋丸が大好き。

瀬陰暗鬼。