「ねえ。」
「んー?」
あたしが話しかけても葵はギター片手にパソコンに夢中。
あれ、今日ってさ…あたしと一日一緒に居るんじゃなかったっけ?
058.飽きないの?
葵はこの前言っていたもの。今日はオフだって。
でも今の現状はおかしいんじゃないの?
「…なんでもないや。」
「そっか。」
あたしはソファに沈み込んで葵の後姿を見つめる。
葵の隣にはあたしじゃなくてギター。
別に嫉妬なんてしていないんだけど。(だってギターのほうがあたしより遥かに葵といる時間が長いから。)
でもさー、やっぱり寂しいじゃない。彼氏の家にいるのに構ってもらえないなんて。
それに葵は職業上、会える日が限られている。ツアー中なんて電話さえ出来ない事もある。
それだけ葵はこの職業に誇りを持っているんだろうけど。
「飽きないの?」
「え?」
「その…ギター。」
「全然。飽きるはずが無い。」
後姿との会話。
表情が見えなくて。
「飽きたらギタリストやっていけないもんね。」
「まあな。」
ふう、と溜め息をついてからヘッドフォンを外した葵。
あたしは相変わらず沈んだまま。
仰向けだった体制をうつ伏せに変えた。
「。」
「な…に?」
「おいで?」
キィ、と椅子を動かしてあたしのほうを向いてそっと手を広げた葵。
あたしは躊躇うことなく近づいて、そのままぎゅーっと抱きしめた葵にそっと擦り寄った。
「今日は一段と素直やん。」
「…。」
「いい子いい子。」
「子供扱い…しないでよ。」
「すまん。」
「ううん。」
言葉がプツプツ切られても葵の体温から溢れるくらいに言葉の変わりに違うものが流れてくる。
「…今日はたくさん甘えたい。」
「…誘ってるん?」
「違う。」
クスクス笑う葵から一旦解放される。
そのまましゃがみこんだ後、椅子から降りた彼によって再び、優しく拘束された。
「今日…っつってももうこんな時間なんやけど…これからどうする?」
頬に柔らかい感触。
首筋にくすぐったい感触。
背中に温かい感触。
「葵にまかせるよ。」
「じゃ、もう少しこのままで。」
「いいよ。でも飽きない?」
「ぜーんぜん。ギターと同じ。飽きるはず無い。」
「ギターと同じ…って。」
「それくらい俺にとっては必要なんよ。」
「そっか。嬉しいな。」
振り返って、葵の唇にキス。
初めてじゃないかしら、あたしからしたの。
すぐに離そうとしたけどそこで葵の反撃。
一瞬の隙をついて後頭部を彼の掌によって押さえつけられた。
入り込んできた舌。
ねっとりとしたなんとも言えない感覚があたしを犯す。
卑猥な音。
卑猥な舌使い。
卑猥な表情。
「……ぁ…」
唇が離れればいつも以上に色っぽい葵。
(目を逸らせない。)(瞬きすらする時間さえも与えられないようだ。)
「…ばっ…か…。」
「まさかから来るとは想定外やったわ。」
「そこまでやるつもり無かったもん。」
「なあ続きせーへん?」
にっこり笑って爆弾発言。
結局断れない。
だって今のキスで腰が砕けてしまったから。
(立ち上がれない…!)
「無理ッ…立てないって…。」
「いつもの事ながら…手間のかかる子やね。」
「うっさい…誰のせいだと思ってるの。」
「あーはいはい。俺ですねすいません。」
そのままあたしの上に覆いかぶさった。
フローリングの床が火照りだした身体に丁度いい。
あたしも葵も飽きる気配は無い。痛感した久しぶりの夜。
(この後を知っているのは闇と葵のギターだけ)
fin.(2008.04.04、加筆修正06.05)
→ギリギリ。