「元希!!」
ちいせぇ体を大きく振って走ってくる姿がすっげー可愛くて、俺はそいつのことを好きになった。
「さん、榛名は今、ご機嫌斜めだから近づかないほうがいいよ。」
「あ、秋丸くん、お疲れ様。」
誰にでも愛想がよく、敵意がない。
だから人気があるのはわかってる。
俺の片思いって事も。
「元希ッ!今日一緒にっ!?わっ!!」
目の前に走ってきて転んだ。
「大丈夫か?」
「うん。平気。」
左手でつかんでぐいっと起こしてやると、にかっと笑った。
「一緒に帰ろう。」
その笑顔で続けた。
さっき秋丸から俺が機嫌悪ィって奇異てんのにそれでもひょこひょことやってくるから、こいつが来ると和むんだ。
「おー。自主練終わったらなー。」
「うん!待ってる!!」
何でこうやって毎日都合のない日は一緒に帰るかわかんねぇけど、俺はラッキーだと思ってる。
「そういやあ、さんは榛名が終わるまでどこで待ってんの?」
「んー、図書室だよ。で、終わりそうなころにここに来るの。」
「毎回?」
「うん。そうだよ。」
「何でかきいてもいい?」
「ふふふー、元希と一緒に帰りたいから!!」
満面の笑みで答えてるのを見たら馬路で嬉しくなった。
はじめは榛名くんだったのにいつの間にか元希になってるとこも可愛くていいし。
「じゃあ、またあとでねー。」
「転ぶなよー。」
「こ、転ばないよッ!!」
嘘吐き。
俺らがはじめてあった日も転んでたぞ。
ま、いっか。
自主練、自主練っと。
*
「ね、元希!覚えてる?」
「何が?」
「はじめて会ったときのこと。道端の何もないところで私が転んで元希が持ち上げてくれたときのこと。」
出会いも笑えたなぁ。
「覚えてる。」
「私、そのときからずーっと、こうやって空いてる日はさ、元希と帰ってるんだよ。」
知ってた。
他のやつに誘われても断って野球部へ来てたのを何度も見ていた。
「そのときから、私は元希に一目惚れ中なの。」
普通に会話をしているときと変わらない風に呪文のような言葉が響いた。
もしかしてさ、これって両思いってやつ?
「自分で言って照れてんの?」
「はいっ。」
顔を上げて目が合った瞬間、止まんないなって思った。
「が転んでもぜってぇ起こしてやっから。」
にかっと笑った。
そしたらも嬉しそうに笑った。
「よろしくおねがいします!!」
045.転んだ
「でもさ、今度から転ぶ前に助けてよ。」
「じゃあ、四六時中一緒にいろよ。」
あとがき。
ほのぼのしたストーリーが書きたかったんです。
今書いている連載はどれもギトギトしてるから・・・。
ほのぼのは可愛いなあ。
ただ、物足りない気もする。
瀬陰暗鬼。