普通の学生なら、今は5時間目の授業中。
私は屋上で休憩…のはずだった。
階段を軽快なリズムで登って屋上への入り口のノブを回す。





…動かない。


「あ、あれれ?」


何回もガチャガチャとノブを回すがドアは一向に開かない。
誰かが鍵を掛けてしまったようだ。(多分生徒指導の仕業だろう)


「…しょうがないや、今日はここでサボろうかな。」


屋上へのドアの前に座り、寄りかかった。
下のほうからかすかに授業の内容が聞こえてくる。
それを聞き流しながら片手に持っていた袋の中身を床へ散らばした。
小さな音をたてて綺麗な包みが重力に従って落ちる。


「どれにしようかな…。」


赤、橙、紫、黄、桃…目移りしながら私は紫の包みを選んだ。
包みから取り出した飴を口に含む。広がる葡萄の味。
その味にしばらく浸っていた私は階段の上る音に気付かなかった。





「あ、先客?」
「…ん?」





目の前に移りこんだ金色。同じクラスの人。
名前は確か…


「ルキくん?」
「なんで疑問系…ま、いいんだけど。どうして屋上行かないの?誰かいたりするの?」


急な質問攻めに頭がついていかない。
床に散らばしたままの飴を片付けながら頭の中を整理して、答えることにした。


「わ、私も屋上行くつもりだったんだけど鍵が掛かってて開かないの。…だから誰もいないと思う。」
「マジで?なんで閉まってんだ…。」
「さあ?」


「…よし、これ使うか。」


ルキくんがそう言った瞬間、背後で小さな音がした。
右にルキくんの腕。その延長線にドアノブ。何か刺さってる…?


「ちょっとどいてみ。」
「(なんで呼び捨て…)うん。」


ちょっと左にずれる。今まで私のいたところにルキくんが進む。そしてゆっくりノブを回した。
さっきまで開かなかったドアが小さな音と共に開いた。
日差しが眩しいくらいに差し込む。





「うわあ…。」
「どう?」
「どうって…すごいよ、どうやって開けたの?」
「これ使った。」




黄色の可愛らしいマスコットがぶら下がった鍵を右手に持ってる。
屋上の鍵みたいだけど、どうして持ってるのだろうか。
得意げに人差し指で鍵を回す。





「この間、ちょっと拝借して合鍵作ったんだ。」
「…流石ですね。」


肩をすくめて笑うルキくんがとても幼く見えた。(身長もアレだからだろう…。)




+ + + +





しばらく談笑して日向ぼっこをした。
気付けばルキくんは少しうとうとしている。


「…眠いの?」
「おー…最近寝不足…。」
「ふーん…飴、食べる?」


葡萄味の飴が口の中から消えた頃、2個目の飴を舐めようと思った。
どうせなら、ルキくんも。

直後、うとうとしていたルキくんが飛び起きた。(私の心臓は飛び跳ねた。)
真横にはキラキラした目でこっちを見るルキくん。





か、かわいい…。





「食う!!!食べるっ!」
「もう数が少なくなってるけど…それでいいなら。」
「おう!サンキューな、。」


私は適当に袋に片手を突っ込んで飴を無造作に取り出した。
そして隣に渡す。
彼も同じように片手を突っ込…まずコンクリートに飴が散らばった。
楽しそうに飴を選んでる彼を横目で見ながら私は飴を舐め始める。

あ、レモン味だ。


「レモンが…無い。」
「え?」
「レモン無いんだけど。」


未だレモン味の飴を探し続けるルキくん。
どうやら私が今舐め始めたのが最後のレモン味だったようだ。


「…私が舐めてるのが最後のレモンだったのかも。」


また買ってくるから、そのときにあげるよ。といじけ気味のルキくんに言った。
でも彼の機嫌は直らない。




「本当にごめ…「…。」





…!?
ルキくんの顔が私に近づいて…えっと…その…。





「…レモン味。」
「…は、は…!」
「は?」





「初めて、だったのに…!!!」





混乱状態の私から出た言葉。自分でも意味が分からない。
なんだか悲しくなってくる。
まさかこんな形で奪われるとは。


「マジ!?…悪かった…。」
「…私はこれからどうすればいいんだ…。」


今度は私が頭を抱える。自分で思う以上に精神に大きなショックだった。





「あー、よし。責任取る。」





『責任取る』と意味の分からないことを言い出した彼。
突然私の肩を掴んで無理矢理ルキくんは私を向かい合わせた。
そして、信じられない一言。










「ずっと前から好きだった!」




018.レモンの飴玉


fin.(2007.08.13)
→ルキ氏の口調がよくわからない。ちなみに合鍵についてるキーホルダーはタロちゃんです。