今日は地元の大きな夏祭り。
彼氏なんていない私は友達と三人で行く事になった。
友達曰く、「浴衣は絶対」らしいので服装は浴衣。動きにくいのが難点。
慣れない服装に苦労しつつ、待ち合わせ場所へ。午後五時、夏だからまだ明るい。
遠くで聞こえる蝉(ひぐらしかなあ?)の鳴き声に切なさを覚えた。
今日は残暑で蒸し暑い。
「ー!」
しばらくして友達の声。薄い紫の生地に蛍の模様。
いつもより大人っぽく見えた。
あと一人はまだ来ない。
「しかし、この時間からこれだけの人とは…。」
「うわぁ…。」
周りには人、人、人。何処を見ても人で溢れかえっている。
小さい子から高齢の人まで様々だ。
私達とさほど年齢の変わらない人が一番多いかな。ちなみにカップル率は80%ぐらい。
私達は女三人。(なんて寂しいんだろう…!!)
でも気軽だから良いんだけどね。
ぼーっと二人で待ってれば気になった先。
男の人が五人。私は何故かそこを見続ける。王道の金髪や茶髪それに黒髪、ドレッド。まさに色とりどり。
+ + + +
約十分後、もう一人の子も到着。藍色の生地に金魚の模様の浴衣を着ていた。
和風美人だ。
「浴衣歩きにくくて…ごめん。」
「ううん、大丈夫。」
「…、浴衣似合うね〜。」
「可愛い!!!!」
「そ、そうかな…?でも二人の方が可愛いじゃん。」
女子間ではお約束の会話。日常茶飯事。
さっきの人達がまた気になって見たけど、もう人ごみに消えていた。
私達も同じように人ごみに紛れていく。
りんご飴を探してみたり、見知らぬ小さい子と一緒に金魚すくいをした。
金魚は戻さずに二匹貰ってきた。(買うほうが安いけど…でも小さくで可愛いかったから)
大きなお祭りだからテレビカメラが数台見える。きっとこの映像が生中継されているのだろう。
もしかしたら私達も映っているのかもしれない。(カメラを持った人がカメラを横切った私達を捉えていたから)
アマチュアのカメラマンが被写体を探しているのもちらほら見えた。
「ねえねえ。」
「はい?」
背後からの声に振り返ると知らない人が三人。すぐに何のために話しかけてきたのか察知できた。
「俺ら三人でさー。」
「一緒にお祭り周らない?」
「花火がよく見える場所知ってるし!!」
ほら。俗に言うナンパだ。
乗り気じゃない私と既に仲良くなっている二人。なんだこのテンションの違い。
一人孤立してるところに余ったであろう男が話しかけた。
「名前は?」
普通、名前を聞くときは自分の名前を名乗ってからでしょ?
「…。」
「あっちもう行くみたいでさ、俺なんだけど…いいかな?」
全然よくない。…まあ途中で帰ればいいか。
とりあえず頷いて歩き出した。
…嗚呼、どうしてこうなるの。
+ + + +
談笑しながら歩く六人。他人から見ればデートに見えるんだろう。
全然違うからね!ただ歩いてるだけだ。
友達はなんか色々買ってもらっている。(特に何もいらないから私は断ってる)
自分のこととか簡単な事を話ながら歩いていると人にぶつかってしまった。
男は気付かず進んでいた。
急いで私はぶつかってしまった人に謝る。(笑って許してくれた。酔っているのか、アルコールの匂いが鼻を掠める)
歩き出せば、皆いなかった。どうやらはぐれたみたい。
いくら慣れた道でもちょっとだけ心細い。
とりあえず連絡を取りたいから屋台の裏の人が少ないところへ。
携帯を開いてみたけど案の定圏外だったのを忘れていた。
「あ〜…どうしよう…!!」
一人木の下にしゃがみこむ。どうやって合流すればいいの?!
淋しくなったのでさっきすくった金魚を見つめて気を紛らわそうとした。
ふよふよ、ひらひら。
小さい金魚が少し窮屈そうに泳いでる。
早く帰って水槽か金魚鉢に入れてあげないと。
「ごめんね、もうちょっとだから…。」
「…どうしたの?具合でも悪いの?」
目線を金魚から上に。男の人。…本日二回目のナンパですか?
でもよく見たら夕方に見た人で。
「あ、さっき見た人…。」
「うん?」
「な、なんでもないです。」
彼はへへっ、と笑って私の隣にしゃがんだ。
「どうしたの?」
「友達と、はぐれちゃって。」
「一緒に探してあげる?」
「大丈夫…どうせ男の人達と楽しそうでしたし。」
そして私はぽつりと名前も知らない人に話を始める。
彼は、相槌を打ちながら全部聞いてくれた。
聞き終わると同時に私の手を引いて立ち上がった。
「よし、俺と一緒に周ろう!」
「は?」
「どうせ俺も仲間とはぐれたしさ…ね?」
「他の四人とですか?」
「あれ、知ってるの?」
だってさっき私は見つめていたのだもの。
「五時くらいに見たから…目立ってたし。」
「ああ…ルキとかれいちゃん目立つよなあ…あ、仲間の名前ね!!」
「ふふっ、面白い人。」
彼はそうかなあ、と照れくさそうにそっぽを向いた。
「そんなことより早く行こうか。」
「あ、はい。その前に…」
「え?」
「手、離してくれませんか?」
「ダメ、君いなくなっちゃいそうだもん。」
不覚にも顔が熱くなった。お祭りの熱気とは違う熱さ。
+ + + +
また戻った私達。まだ手は繋いだまま。
さっきの人達とは違ってすごく楽しい。
りんご飴をまた買った。(りんご飴屋のおじさんが「ラブラブだね〜」と言ってきたが、違う。)
花火までもう時間が無いからか、人が少なくなった気がする。
そういえば彼は仲間を探さないでいいのだろうか?
「あの、」
「ん?」
りんご飴を美味しそうに食べていた。もしかしたらこの人はそこら辺の女の子より可愛いのかもしれない。
「お友達探さないんですか?私といますけど…。」
「いーのいーの!帰り際に会えるから。それと、」
向き合って一言。
「敬語使わなくていいから。」
「…うん。」
ニコっと笑った彼はまたりんご飴を食べた。
「あ、もう花火始まるけど…一緒に見る?」
「見たいな…一応このお祭りのメインだし…。」
「それじゃ、俺が一番いいところ連れて行ってあげる!!」
「ほんと?」
「本当。」
どうやら私はこの人に惚れてしまったようです。
008.見知らぬ君と
「忘れてた!俺ね戒って言うの。」
「…。」
「ん、ちゃんね。」
そして私は戒さんと花火を見るために歩き続けた。
fin.(2007.05.21、加筆修正2008.05.29)
→戒くんがりんご飴を美味しそうに食べてるとか可愛すぎる。