「ッ神威…」
「なに?」
「…ううん、なんでもない。」


服の袖を掴んで、貴方がいなくなることを拒めばよかったのに。どうして出来ないのだろう。
貴方は私を見つめていつものようにニコリ、と笑った。



「…そんな悲しそうな顔するなよ。」
「してないよ。」
「嘘だ。」
「嘘じゃないですー。信じてよ。」


悪態をついてみるけれど、寂しさは忘れられなかった。


「神威、死なないでよ。」
「やだなあ、そんな簡単に死ぬわけないでしょ?」
「それもそうだけど。万が一…ね…。」


日よけの為に差している番傘をぼんやり見つめながら少しだけ心配してやる。(まあ簡単に死ぬはずないけどね)


「ねえ、。」
「…何?」
「泣きそうでしょ?」
「どうして、」
「だって俺の事見てないもん。」


泣きそうなときに相手の顔を見ないのはの癖だね。

そうを言うと神威は私の手を引いて、そっと抱きしめた。
重力に従い、涙はポロポロと下へと落ちていく。
嗚呼、どうして貴方はこんなに優しいの。


「ほら、泣かないの。」
「うっさい…馬鹿…。」
「こんなに泣かれるとはねー俺もちょっと後ろめたい、かも。」
「嘘つき…うっ…ひっ…。」


「大丈夫、ちゃんとまた帰ってくるから。」


いい子にしているんだよ。
そっと囁き、頬にキスして神威はゆっくり歩き出した。


004.信じあえるならば



「いってらっしゃい。」

後ろ姿へ送る言葉は、彼には届いていない。

fin.(2009.02.16、up2009.02.19)
→なんだこれ。