またこの季節。
俺の好きな季節。
001.初夏の出来事
「智久、お隣さんに家にこれ、おそそわけしてきて。」
「母ちゃん、俺じゃなくてさあ・・・」
「文句言わないの。」
お隣さんって確かおばあちゃんだったなあ。
すごくいい人なんだよね。
ピンポーン・・・
・・・来ない。
ピンポーン・・・
来ない・・・。
ピーンポン、ピンポン!!
・・・
カチャ・・・
やっと出た。
「誰?今、お昼寝中だったんだけど。」
でも、出てきたのはおばあちゃんじゃなくて、女の子。
「で、誰?あんた。」
俺のこと知らないんだ・・・珍しいな・・・じゃなくて、このこ誰?
「おばあちゃんに用?ならまた今度にして。買い物行ったから当分帰ってこないよ。」
まあ、おばあちゃんじゃなくてもいいから、預けちゃってもいいよね。
「俺、隣の家の山下です。これ、おそそわけ。」
何か嫌そうな顔。
「おばあさんに渡してね。」
さらに嫌そうな顔。
「え、何か?」
「後で、おばあちゃんにとりに行ってもらうから持ってかえって。私、そういうの苦手だから。じゃあ。」
パタン
扉閉まっちゃったよ!?
「あら、智久くん?」
いつものおばあちゃんだ。
「こんにちは。これ、おそそわけです。」
「あらまあ、わざわざありがとね。孫がいるはずなんだけどねぇ・・・呼び鈴ならさなかったんかい?」
帰れと言われましたなんて言えない!
だって、おばあちゃんいい人だし・・・。
「アイス食べてくかい?孫を紹介するからねぇ。」
アイス・・・でも、あのこ・・・
アイスだけでいいのに・・・。
*
「孫は今、長野からきとるんよ。空気が悪いって怒ってるけどねぇ。来年、こっちの大学を受験するために夏期講習を受けにきとるんよ。」
え、来年が受験ってことは今こうこう2年生!?
見えなかったなあ・・・。
「緋奈ちゃん。アイス買ってきたから降りといでー。」
「おかえり。早かったね。」
早っ!このこ、高速移動でもしてきた!?
「あ、さっきの・・・山下さんだっけ・・・?」
「あらまあ、会ってたの?」
「うーん・・・微妙?」
微妙じゃなくてちゃんと会いましたよね?
短いけど、会話もしたよ!?
「智久くん、何がいい?」
「・・・あげんの?」
「あげなさいな。」
「・・・苺でいい?」
初めて受け入れてもらった気分。
「ってか、智久って言うんだ。」
「あ、うん。」
年下に呼び捨て・・・
「緋奈でいーよ。私、緋奈。」
仲良く慣れた気分。
「明日暇?」
まあ、オフだったなあ・・・
「暇だけど?」
「海に連れてって。海。私、見たことない。」
いきなりですか!?
「いいわねぇ。智久くん、緋奈ちゃんのことお願いしてもいいかねぇ。」
「あっ、ハイ。」
「海・・・」
つい、OKしちゃったよ。
まあ、海くらい、いいかな。
ピルル・・・
ケータイ?
「もしもし。」
電話か。
って、おばあちゃんいないし。
「うん、たのしーよー。お隣の人もめっちゃくちゃいい人でねー♪
えー?おみやあ?仕方ないなあ。暇だったらねぇ?
んわかってるってぇ♪じゃあ、勉強中だからきるねー♪」
勉強なんかしてないよねぇ?
ってか、今の誰!?
「驚いた?」
ケロッと言ったし。
「そりゃ、驚くよ。」
失敗したなあって言いながらソファーにどっかり座った。
「私さ、向こうでは猫かぶってんの。ここは私のある意味駆け込み寺。大好きなおばあちゃんがいて、唯一素の自分でいてもいいところ。」
大切な場所なんだって。結構普通のこじゃん。
「明日、9時に家の前ね?海行くんでしょ?」
「うん。」
嬉しそうだ。
それに、普通に可愛いし。
「また明日。」
なんか、近づきたいって思った。
______
ってか、俺、昨日9時って言わなかったっけ?
今、8時だよ?
「遅い。」
いや、叩き起こされたこっちの身にもなって。
「海・・・」
単語しか話してませんよ?
「車、乗って。」
「うん。」
素直だ。
まあ、出発。
*
「うーみーっ!」
はしゃいでる。
って、もう、視界からいなくなったし!!
「智久、何キョロキョロしてるの?」
いないと不安になる。
「いや・・・」
「ってか、私なんか変?さっきからジロジロ見られてる気がする。」
結構内心浮かれてて、気づかなかった。
しかも、俺、グラサンしてないじゃん。
「それ、俺のせい。」
説明すんの嫌だったけど、説明した。
「だから何よ。私の知ったあんたはここにいるあんた。山下智久っていうただの人。芸能人なんて知らないよ。仕事中じゃないんだから気にしてどうするの?」
あそぼーって言ってはしゃぎまわる。
俺はその姿をずっと目で追ってた。
*
「あー、楽しかったあ♪」
「それはよかったね。」
そんなに喜ばれるとまた連れて行ってあげたいなって思う。
「実は今日で夏期講習終わりだったの。でもさ、行きたくなくてさ。田舎ものって言われんの嫌なんだよね。」
田舎って俺は好きだけどなあ。
「明日、向こうに帰るんだ。できれば、もっと早くに智久に会いたかったなあ。本当、ありがとね。」
小さく音をたてて頬に柔らかい感触。
少し照れた君を抱きしめた。
いつの間にか好きになってたんだね。
「と、智久あ!?」
「また来て。本当はずっと、こっちにいてほしいけど、そんな無責任なお願いは出来ないし、言えない。でも、好き。だからまた会いたい。」
芸能人じゃなくて一人の男としてみてくれる君が好き。
「いきなり・・・って思ったけどさ、また来る。来年になっちゃうけど、また来るよ。智久に会いにまた、来るよ。」
「緋奈・・・。」
「来年の初夏、また来ます。」
君が言うと本当のように感じるんだ。
約束って言う言葉を使わなくていいくらい、本当になる気がするんだ。
「緋奈、またね。」
「うん。またね。」
______
一年がたった。
「おーい、海行こうよー。」
隣から聞こえた声。
君とまた思い出を作ろう。
君との、初夏の出来事。
来年は毎日、一緒かなあ。
あとがき。
1なのに結構あとにかいたです。
まあ、思い浮かんだ順に書けばいいかなあって。
楽しいですよ?(笑)
連載と順々にがんばりまっす!!
瀬陰暗鬼