「キス、しよっか。」
「…え、」
…一瞬時が止まった気がした。とにかく私は目を丸くする。
突然の大雨(ゲリラ豪雨というやつだ)のおかげで、部屋で過ごすことを余儀なくされた私達。
ダイゴはダイゴでひたすら読書だし(どうせ石の事が書いてある本だろう)、私は私でテレビを見たりファッション誌を眺めたりしてるわけで。
要は同じ部屋にいてもやっている事は何一つ同じではないのだ。
テレビではまたマグマ団とアクア団がどうのこうのという何度も見て飽きてしまった話題だったので、リモコンに手を伸ばして電源を切った。
「テレビ、見ないの?」
「面白くないんだもの。」
「そっか。」
ダイゴはまた本に視線を落とす。
本と睨めっこする彼とファッション雑誌を理由もなく見つめる私。(…あ、このワンピース可愛い)
あまりに退屈だったので目に入った文を小さい声で読み上げてみた。
「恥ずかしがらずに甘えてみよう。寂しい気持ちを我慢するのはダメ。思い切りが大切。……なんだこれ。」
…ああ…雑誌特有の恋愛コーナーか。我ながらなんてページを読んでしまったんだ。
ダイゴの方をチラリと見ると、特に今の発言を気にすることなく読書に勤しんでいる。
まったく、大好きな石の事になるといつもこうだ。
「…。」
「なあにー?」
溜息を吐いて寝ころんでいるソファに顔を埋めていると彼の座っている方向から声がした。
とりあえず返事する私。
…そして彼は冒頭の発言をしたのだ。幾らなんでも突然すぎるでしょう…!
「な、なななななんで…?」
「なんで、と言われてもなあ。ふとキスしたくなったんだよね。」
そう言うとダイゴは読んでいた本に栞を挟んでデスクに置いた。
そして高級そうな柔らかい椅子から立ち上がり、ソファへ真っ直ぐ向かってきた。
私の元に到着した彼は、先ほどと変わらずに寝転がる私を見下ろす。
目を合わせてもう一度ダイゴは言った。
「キス、しよ?」
なんとか視線を外すことに成功した私はソファに寝転がるのを止めて、起き上がった。
同時にダイゴが空いた隣に座る。
…正直どう対応すれば良いのかが分からなくなった。改めて訊かれると恥ずかしい。
恥ずかしさとどう返答しようか、という考えに気をとられていると頬に不意打ち。
直後、視界が少し遮られた。同時に彼の体温が伝わる。
「わ…。」
「もー…可愛い……次は唇。」
くい、と顎を持たれてまた視線が合う。
悪戯が成功した子供の様な笑顔の彼が目の前にいた。
「ほら、目を瞑って。」
「…うん。」
言われた通りに目を閉じると、すぐに彼のそれが重なった。
何秒していたかなんて分からない。私はただ身を任せるだけ。
ゆっくり閉じていた目を開くと顔の赤くなったダイゴが見えた。
(すき、スキ、大好き!)
「ああもうは可愛すぎ…!もっとしていい?」
「調子に乗らないの!……でも、」
「…でも?」
「ダイゴならいいよ。」
「……!!!」
fin.(2010.08.04)
ちょっと甘ったるいの書いてみようとした結果がこれ。恥ずかしすぎる。
title by コ・コ・コ