1学期に借りていた本を返し忘れていた事に気付いた私は、自転車のカゴに本と携帯とお財布を入れた鞄を投げ入れて颯爽と自転車を学校へ向けて漕ぎ始めた。
赤信号で止まる度、ジリジリと夏の暑さで汗が滲む。
学校の自動販売機は稼働しているのかな、どうしてアイスの自動販売機はないのかな。
みんな夏休み楽しんでいるのかな…まだ始まったばかりだけど。
学校に着いたら職員室に行って銀八先生に一言言わなければ。

暑さで鈍りかけた思考を止めないために必死に頭と足を動かしていたら思ったよりも直ぐに学校へ到着した。
駐輪場に自転車を置いて小走りで玄関に入ろうとした、ら。

「高杉じゃん。」
「よォ。」
「どうしたのー?忘れ物?」
「ばーか違ェよ。」

クラスメイトであり、悪友の高杉晋助が玄関にいた。

「え、じゃあ何のために。」
「…補習だよホシュウ。あー…めんどくせェ…」

まさかサボリ大好き高杉くんの口から補習と云う言葉が出てくるとは。
意外すぎて肩に掛けてた鞄を落としそうになった。

「で、てめーはどうしたんだ?」
「んーっとね、1学期に借りた本を返し忘れててさ。返しに来ただけだよ。」
「じゃあ直ぐに帰るのか?」
「そうだねー。」

暑いし。

汗が首筋を伝った。
早く帰ってシャワー浴びたい…。


「とにかく玄関にいるのもあれだし、学校入ろうか。」
「おー。」

スクールバッグを背負った彼も私と同じように暑そうだ。
残念ながら一般教室にはエアコンが設置されていない我が校。
唯一設置されているのは職員室とパソコン室、そして図書室のみである。
…恐らく彼が補習を受けるであろう教室は地獄だろう。

私は職員室へ行く足を止めて、自動販売機へ行った。
お財布から120円を取り出し投入し、ボタンを押したら、ガタンと缶が落ちてきた。
取り出したのはお徳用カルピス。まあ、私は飲まないけれど。

「高杉!」
「…んだよ。」

歩き始めた高杉の後ろ姿に声を投げると、明らかに気怠げな返事が返ってきた。

「頑張れ補習!」

下手くそなりに一生懸命投げる……お、ナイスキャッチ!

「…今日は金欠じゃねーのか。」
「ま、失礼しちゃうわー!昨日バイト代入ったの。そんな事言うならカルピス返しなさいよー!」
「……貰っておく。」


缶を持った手を少し上げて、高杉は廊下を歩いていった。


(高杉が嬉しそうな顔をしていたなんて知るわけがなかった。)

fin.(2010.08.02)
企画第1作。がんばるぞ!